ニコラ・テスラに捧ぐ
小鹿は昔、一つのSF短編小説を書きました。
それは15年前です、当時会社の同僚に配布したところ、
けっこう好評を博した作品です。
スラスラ読めると思います、退屈しのぎになりますよ、
Webに載せるのも、人に読んでもらうのも15年ぶりです.
ガラケー時代、今では見られない15年前の流行が
色々出てきて驚くかも知れません。
よろしければどうぞお読みください(^ ^)
SF短編小説「広島へ帰る前に」
この物語はフィクションであり 登場する団体名・個人名に心当たりがあれば それは偶然の一致である。
タイトルに「広島」…とあるけど、
これは自分の故郷じゃない。
同じバイト先の、紺野君の故郷だ。
自分はこの会社に入って、まだ3ヶ月しか経っていない。
紺野君もまだ半年らしいけど・・。
休憩時間に携帯の出会いサイトを見ていたら、
紺野君が顔を寄せてきた。
「城戸(きど)さん、
携帯サイトの女の子って、メール長続きします~?」
「ん~、続かない」・・とオレ。
彼は笑みを浮かべて、そして目は真剣に
「まだ…、でもそのずう~っと手前な子なら、居ます。
ん~、けどまだ会ったことなくて、
つぎ、広島に帰ったら、会う約束はしてるんです。」
「どんな子だい?」
紺野君はボウズ頭だし地味な顔立ちなので、
その彼女候補さんも、おとなしめだろうか?
「写メはないけど、プリクラならありますよ♪
プリクラ帳に貼ってます。」…と紺野君
「へえー、プリあるんだぁ、見せて見せて!」
紺野君がバッグに手を入れ、プリクラ帳を取り出した、
近い将来の彼女(候補)のプリクラがある。
オレはうなった
「おォ~っ!」
紺野君のイメージとはほぼ逆の、
いまどきの可愛い小悪魔チックな女の子に驚いた。
プリクラ帳にある他の友達のプリも見たくなったので
オレはプリ帳を手に取って、見せてもらう事にした。
しかし…中に1枚だけ個性的な写真がある。
「なあ紺野君、これ変わった写真だね。
なんかさ、大昔のファッションみたいだよなあ~、
軍服みたいなの着てるしさ。」
それには紺野君も同意して
「ええ不思議なんですよ・・
僕が貼ったんじゃないんです、誰が貼ったのかなぁ?
それにこれ、僕じゃなくて、おじいさんの写真ですよ。」
「な、なぬっ!?コレ、紺野君じゃなかったの?
紺野君のおじいさんの写真だったの?」
「・・ええ、そうなんですよ、そっくりでしょ(笑)」
~と紺野君
「まったく同じ顔だよね。」
「けど20歳のときに、原爆で亡くなったんです。
でも奥さん…僕のおばあさんですね・・
と子供、いわゆるうちの親父ですね・・
は田舎に疎開してて、助かったそうです。」
「あ、そうなんだあ・・で、なぜこのプリ帳に
おじいさんの写真があるの?」
彼はおでこにシワを寄せて、首を横に振った。
「分かりません、全然分からないっす。
このプリ帳、人に貸したことも無いし、
なんでこの写真が貼ってあんのか
分かんないんスよ~
それに、これ以外にも不思議なことが・・、
僕が持ってたメモ帳も無くなってて、その代わりに、
こんなメモ帳がかばんに入ってるんです。。。」
彼はかばんの中からメモ帳を取り出した、
オレはそのメモ帳を見せてもらった。
ページを開き、中を見ると、
なにやら鉛筆でメモが書かれている。
メモの書き方も独特だ、
「・・スルベシ」「・・ト、セス」 「・・ト、セリ」「・・ナリ。」
~などと、いかにも昔の文体だ。
しかしものすごく不思議である。
まるで昨日やおととい書いたような、
新鮮な筆跡なのだ、鉛筆のにおいまで残っている。
誰が何のために、
このメモ帳と紺野君のメモ帳を入れ替えたのか?・・
今日もマネキン工場の仕事はいそがしい。
オレと紺野君は毎日ここで、マネキン人形を作ってる。
人気アニメキャラも作るし、
洋服店用の上半身だけのや、全身マネキンも作っている。
ディズニーランドも盛況だし、
その周辺のデパートやブティックが大賑わいで注文が多い。
また上海・香港・マニラからも注文が増え、
残業続きなんだ。
ここ1週間は、ここ名古屋工場から
毎日、中国や東南アジアへ出荷してる。
いそがしいな、クタクタだ。
今日も仕事を終え、ロッカールームで着替えていると、
紺野君がビックリした顔でやってきた。
「城戸さん、名前が!!!・・」
彼が白い野球帽を差し出した。
そしてその裏がわを見せた。
「帽子の裏にマジックで僕の名前を書いてたのに・・
今日みたら、下の名が変わってます!
”善次郎” になってる。」
彼は続けた、
「僕の名前を消した跡もない。
いや、マジックで書いたから消すのは無理、
苗字は紺野のままだけど、下の名だけ変わってます。」
拡大図 ▼
オレは彼に言った
「確かに紺野君の帽子かい?
この帽子、善次郎さんって人のじゃないの?」
すると彼は
「そう言われれば、苗字の字体も僕の書きグセと違う、
おじいさんの帽子かも知れません。
おじいさんは”善次郎”って名だったんです。
あぁ、僕のと同じ帽子だ。」
おじいさんは僕と同じ、広島の第5中学の出身なんです、
だけど、同じ野球部出身だったなんて・・。」
いったい誰なんだ?
誰が、紺野君の帽子を入れ替えたのか・・?
オレはハッとした。
そして、あのメモ帳のことが気になった。
~先日、紺野君のメモ帳がなくなった代わりに
入れ替わってたあのメモ帳。
「紺野君、こないだのメモ帳、いま持ってる?」
「紺野君、そのメモ帳、貸してくれる?今日だけ」
「別に何日でもどうぞ~~。」
オレは着替え終わったあと、
ロッカールームに座って
メモ帳をパラパラとめくっていた。
写真ノ移動ニ成功セリ。 モウ一度試験を行イ、4度目ハ実物ニテ完結
「これは紺野君が書いたの?」
「いいえ、違いますよ、
ってか、このメモ帳には僕の字は一つもありません。」
紺野君と別れたあと、オレは公園のベンチに座り、
もう一度メモ帳をパラパラとめくり、読んでいた。
このメモ帳、どのページをめくっても、
文体が昔の書き方だ。。
・・戦時中みたいな文章なのだ、
”写真ノ移動ニ成功セリ。
モウ一度試験を行イ、4度目ハ実物ニテ完結。”
これはどういう意味なんだ?
まず「写真ノ移動ニ・・」とある。
これはひょっとして、紺野君のプリクラ帳にあった、
例のおじいさんの写真の意味か・・?」
そしてその文の下に、更に小さく書かれている。
フィラデルフィア実験デノ事故ハ モウ起コラナイ。 似タ物同士を転移スル事デ、融合ヲ避ケル事ガ可能。
な、なんなんだ、フィラデルフィア実験って?
「融合」って何の融合だ?
よし、図書館で調べることにしよう。
・・そしてオレは図書館へ向かった。
~つづく・・
↓
「広島へ帰る前に」第2巻へ進む(*’ω’*)…